曽根原家住宅のはなし

*スタッフ日常2018/8/4

松本支店の店先に、ツバメが巣を作っています。
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いや、すでに「いました」という話になってしまうのですが。
ヒナたちも大きくなり、つい先日、巣立ちの時がやって来ました。
巣が出来て間もなく、ちっちゃくてピヨピヨと鳴いて
親鳥に餌を求めていた彼らも巣立ちの頃には親鳥と変わらぬ大きさに。
4羽ほどいた彼らも巣立ちの間際には小さな巣におさまりきらなくなったのか、
巣から身体をはみ出させるようにして、それでもまだ餌の調達を
続けてくれている親鳥の“帰宅”を待ちわびているかのようでした。
数か月前、あっという間に作り上げた新居でしたが、
ヒナの生育に合わせたリフォームで増改築を行えるわけでもなく、
ツバメたちもたいへんです。
やがてここから巣立ったヒナたちもまた伴侶を見つけて
どこかに小さな小さな、かわいらしい新居を作るのでしょうね。
 
古の時代から人の住まいと切っても切れない間柄だったツバメたちを仰ぎ見て、
なんともいえない感慨深さを感じている、リフォーム設計担当の高松です、こんにちは。
 
さて、古の時代からといえば、人の住まいも歴史の中で進化を遂げ、
いま私たちも取り組んでいる最新の技術を採用した家づくりが
各地で行われています。
伝統的な建築物というのはそれぞれ建てられている地域で特徴があり、
それは気候風土や利用できる材料などによって大きく左右されるものです。
 
私が暮らしている安曇野の穂高有明という地区に、曽根原家住宅という建物があります。
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長野県中南信地区独特の本棟造をイメージさせる曽根原家住宅は、
国の重要文化財に指定されている貴重な歴史的建造物です。
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この建物がいま、20年に一度の屋根の葺き替えを含む大規模な修繕工事に入っており、
先日その工事状況見学会の招待を受け、貴重な機会でしたので参加してきました。
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曽根原家は村の庄屋を務めた旧家で、現存する建物は17世紀中頃(約350年前)と推定。
江戸初期に建てられた農家の事例としては極めて貴重な存在で、
昭和48年に国の重要文化財に指定された建物です。
石置きの板葺き屋根が特徴的で、本棟造の古い姿を伝える建築として評価されています。
 
文化財指定後、幾度か屋根修繕を図ってきましたが、今回の修理では屋根板を
全面的に張り替えるという、2年がかりの大掛かりな工事になっています。
なので普段は一般公開されている同建物も工事がある程度進むまで一時休館です。
 
現在屋根材として使われているのはサワラの木を割いたもの。
今回は諸事情でスギ材を使用していますが、主に秋田杉を利用した板材は
かなり上質な板材で、しかもこれらは機械では製材できないため
大口径の丸太の状態からすべて手作業で板材として割かれ準備されているそうです。
板材は長さ3尺(約90cm)、厚さは約2~3分(6~9㎜)。
これを3寸(9cm)ずつずらせて敷くと、一箇所で10枚重なった板葺き屋根となります。
そしてこれらの板は基本的に釘止めして建物に固定されるのではなく、
上から重しとなる石を置き、それで雨風をしのぐようになっています。
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ただ板を重ねただけで雨漏りの心配は?とつい思ってしまうところですが、
実際に20年を経た現状の屋根材の様子を見ると、露出している先端の3寸部分はともかく、
内側に隠れた部分は表面から数えて3~4枚目あたりまでしか痛みはありません。
なので、昔は痛んだらすぐに全面葺き替えをしたのではなく、
少しずつ板を上下差し替えながら使用していったそうです。
一枚の板材は上手に活用すれば数十年は活用できたということですね。
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現代は金属屋根や瓦葺が主流で、耐久性の高い塗装もあるので
メンテナンスを上手に行えば同じく数十年は使える屋根材もありますが、
工業技術などがない江戸時代の民家の板ぶき屋根の技術というか、
その時代の人々の生活の知恵というものには、驚かされるばかりです。
 
ただ、文化財クラスの建物に限らず、古い建物を後世に伝えていくというのは、
それは簡単なことではありません。板葺き屋根の場合、まず屋根材の入手が非常に困難。
加えてこれらを扱える伝統技術をもった職人がいないのが現実です。
昔は地域にひとりは居たとされる屋根ふき職人も、屋根葺き材の変化に伴い
その職を失い、姿を消してしまいました。
今回の修繕工事で作業されている職人は、普段は寺社建築で
?葺きや檜皮葺を専門とする方々で、このような民家の板葺きというのは
正直なところ専門外の領域なのだそうです。
技術的には檜皮や?葺きのほうが難易度は高いのでしょうが、
こうしたところにも民家建築の伝統継承の難しさを感じてしまいます。
 
文化財建築や古民家といったジャンルは私個人としても携わる機会の多い分野です。
今後のブログでも少しずつこうした建物の話題、とくに古民家の修繕や
リノベーションといったお話を提供できればと思います。